F1−9E
やっぱり田中は田中だった。
スコアだけ見ると大味なゲームのように見えるが、緊迫感のある濃密な投手戦であった。3度目の正直となるか、楽天の先発・田中将大のピッチングが大いに気になっていた。10連戦の最終戦、しかも勝てば3位浮上はほぼ間違いないというゲームの中で、周りからの雑音やプレッシャーをはねのけて、7回90球3安打1失点というピッチングにまとめた田中は、やはり「さすが」というしかない。
田中がどんな気持ちで投げていたか、いちファンの想像など遠く及ばないことはわかっている。ただ、田中が今まで見たことのないくらい集中していたのは見ていて分かった。身体全体からこわいくらいの「本気」が伝わってきた。田中の周りにはバリヤのようなものが張られ、まったく外の雑音など届かないような、田中とバッターだけの世界、そんな中で投げているように感じた。
150キロ台のボールは1球もなかったが、とにかく制球がよかった。これぞ田中将大という制球力と配球でほとんど投げミスなし。唯一の失点となった6回裏の田宮のホームラン。打率1割台の9番バッター、あれは投げミスでもなんでもなく、初球ストライクをとりにいったボールをたまたま持っていかれた当たりだった。ただ、そこからが田中のすごいところで、並のピッチャーなら同点にされて集中力の糸が切れてしまうところだが、そして最近の田中がまさに打たれだすと止まらない並のピッチャーになっていたのだけれど、昨日の田中は違っていた。後続の万波、郡司、清宮といったファイターズ自慢の強力打線をキッチリ三者凡退に抑えてみせたのだ。
残念ながら田中に勝ちはつかなかったけれど、田中の必死さ、集中力、本気度はほかのナインにもファンにも十分に伝わっていた。もういちど田中にかけてみよう、そんな気持ちにさせたマウンドだった。
それはそうと、キャッチャーが安田ではなく、炭谷だったのには何か意味があったのだろうか。石井采配だったのか、田中の希望だったのか。そこだけ気になった。
打のヒーローはベテランの面々
相手先発の伊藤大海は8回まで1失点の熱投で、100球はとうに越していたけれど、9回のマウンドにもあがった。あれはきっと自分から志願したのだと思う。実に伊藤らしい...と、伊藤大海の大ファンである私はますます彼のファンになってしまった。
初回に島内の犠牲フライで先制するも、そのあと伊藤に完全に抑え込まれていた楽天打線は9回表にとうとう突破口を切り開く。その口火を切ったのは先頭バッター岡島の2ベースだった。これに鈴木大地が死球で続き、小郷が送りバントでチャンスメイク。そのあとが辰己、あれはたぶん敬遠だったろう、四球で1アウト満塁。ここで炭谷に代打・銀次。正直、今の銀次にこのチャンスを生かす力がはたしてあるか...と疑って見ていたが、力がありましたね。レフト前へ勝ち越しのタイムリー。すごいすごい。
ここから堰を切ったように、楽天打線が爆発。まずは小深田が2点タイムリー2ベースを打って伊藤大海を引きずり下ろした。このあとも島内のタイムリー、鈴木大地のタイムリー3ベースなどでこのイニングだけで8得点の猛攻をみせた。岡島のチャンスメイク、銀次の勝ち越しタイムリー、島内、鈴木大地の追加点。いやはや、若い日ハムに楽天ベテラン組の意地を見せつけるゲーム展開になった。